「腸年齢をチェックしよう!」 腸内細菌と発酵食品の健康効果 「ウンチ博士」らが市民公開講座で講演
「腸活」という言葉を広めた腸内細菌学者の辨野義己・辨野腸内フローラ研究所理事長・理化学研究所名誉研究員と、腸内細菌の働きを生命科学の立場から探求する木村郁夫・京都大学大学院教授(生体システム学)が、長寿と「腸年齢」や、ヨーグルトなど発酵食品の健康効果について講演しました。その抜粋をおとどけします。
講演は6月23日、東京都江戸川区のタワーホール船堀でひらかれた第29回腸内細菌学会学術集会・市民公開講座「腸活と健康」として行われました。
「ウンチは健康のバロメーター 「腸年齢」を調べて長寿へ生活改善

「腸活」や「腸内フローラ」という言葉を広めたことで知られる辨野さんは「健康寿命を延伸する最高の腸活」というテーマで講演しました。
辨野さんによると、食べたものは通常およそ10~18時間で排出されます。3日以上出ないと医学的な便秘とみなされます。便秘に悩む女性は多く、原因は「ダイエットなどによる偏った食事、筋力低下、ストレス」と指摘しました。一方、40代の男性は下痢に悩む人が多く、仕事のストレスの影響が大きいといわれます。
健康な人の大便の80%は水分で、残りの20%は食べかすや腸内細菌、はがれた腸の粘膜などです。辨野さんは「腸内細菌をコントロールすることで健康の源をつくれる」と考え、2万人から便を集めて腸内細菌を遺伝子解析し、生活習慣などとの関係を調べました。その結果、日本人には9つの腸内細菌パターンがあることがわかり、健康を研究するための貴重なデータベースとなっています。
腸内細菌の状態が加齢によって変化することは「腸年齢の老化」と呼ばれます。辨野さんは、手軽に腸年齢がわかる「腸年齢チェックシート」を作りました。「便秘気味か。おならが臭いか。野菜が嫌いであまり食べないか。運動不足が気になるか」といった10項目です。

「10項目のうち、あてはまるものがゼロであるのがベスト。6~8個ある人の腸年齢は『実年齢+20歳』で計算され、いわば、がけっぷちです。さらに、9個以上の人の腸年齢は『実年齢+30歳』なので老人状態。ただちに生活を改善し、『快腸』になる取り組みを始めましょう」と辨野さん。

30~40代の合計500人の腸年齢チェック結果からは「野菜不足、肉好き、運動不足、ストレス、排便時間が不規則」といった問題点が浮かび上がったといいます。 辨野さんは、腸内環境を整えるなど体に良い働きをするビフィズス菌や酪酸産生菌を「腸活菌」と呼び、「全国の長寿地域を訪ねると、この菌の比率が高いことがわかった」と話しました。長寿の人たちは野菜や海草をよくとり、農作業で運動をしているそうです。

腸活に取り組むと、どのような具体的な効果があるのでしょう。便秘や大腸がんの予防をはじめ、「免疫力が高まり、アレルギーや風邪をブロックする。代謝が良くなり太りにくくなる。肌が若々しくなるなどアンチエイジングになる」と多くの利点をあげた辨野さん。健康寿命を延ばす腸活の実践方法を次のようにアドバイスしました。
・食物繊維と発酵食品をとろう
・便意を感じたら、すぐにトイレへ
・水分は1日1.5リットルを目安にこまめにとる
・1日30分(3000歩)から60分(6000歩)のウォーキング
・リラックスと趣味の時間を大切に
・7時間の睡眠を確保
そのうえで「健康状態を知るには、自分が出したものをチェックする習慣が大切」と力をこめました。トイレでチェックするのはまず便の硬さ。「ほどよい硬さで、気持ちよく出るときは水分含量が80%」。臭いは「健康なら、あまりにおわない」。色は「黄色から黄褐色」。便の重さは300g以上で、「トイレの前後で体重計に乗り、尿のぶんを加味して測るとよい」。長さは20cm前後で、太さはバナナくらいが良いそうです。
辨野さんは「ウンチは健康のバロメーター。見ないで流してしまうなんてもったいない。便所とは、体からのお便りを受け取る『お便り所』です」と語り、「腸を制する者が健康を制する」としめくくりました。
微生物が生み出す発酵食品パワー 短鎖脂肪酸とEPSに注目

京都大学で生命科学研究の最前線に立つ木村さんは「発酵食品による健康効果と細菌叢(そう)」というテーマで講演しました。最初にスライドで市販ヨーグルトのパッケージを映し出し、広告のキーワードに「短鎖脂肪酸」が登場していることを紹介。「発酵食品がなぜ体に良いのかというところの主要な成分です」と説明しました。
短鎖脂肪酸とは何か。木村さんは「腸内細菌が食物繊維などを発酵させて作る物質」とし、エネルギー源になるだけでなく、血流にのって全身に運ばれ、さまざまな臓器の生理機能を活性化していると説明しました。さらに、そのメカニズムについて「短鎖脂肪酸が体内で特定の受容体と結びつき、ホルモン分泌や免疫力などに作用していることが最近の研究でわかってきた」と述べました。
マウスの実験では、肥満を抑える効果も確認されているそうです。ただし、短鎖脂肪酸を口からとっても小腸で吸収されてしまうので、「大腸で腸内細菌が、食物繊維などをエサにして短鎖脂肪酸をつくることが重要」と強調しました。また、食物繊維の種類によって、短鎖脂肪酸の量や種類が異なることも説明しました。

次に、短鎖脂肪酸と同様、ヨーグルトの広告に登場するようになった「EPS(菌体外多糖)」について解説しました。
EPSとは、微生物が産生する多糖の総称です。多糖はブドウ糖などが鎖のようにつながってできた大きな糖の分子で、多くの種類とさまざまな機能性があります。
木村さんたちの研究チームは約500人の便を調べ、EPSを多くつくりだす腸内細菌を5種類発見。そのうち1種類には「甘いもの好きの人の肥満を防ぐ」働きがあることを突きとめ、その作用のメカニズムも明らかにしました。
こうした研究は、発酵食品と腸内細菌の相互作用をくわしく解き明かしていくことにつながっています。発酵食品としてよく知られているのはヨーグルト、味噌、漬物など。これらには乳酸菌やビフィズス菌といった、体に好影響を与える微生物が含まれており、「プロバイオティクス」(補菌食材)と呼ばれています。また、食物繊維やオリゴ糖は腸内細菌のエサになって菌を増やすため、「プレバイオティクス」(育菌食材)と呼ばれます。

木村さんたちは、EPSを生み出す特定の菌が「漬物とキムチに特に多い」ことも発見しています。漬物に含まれるEPSは健康に役立つと考えられ、「発酵食品の効果には微生物がつくる色々な物質が関わっている」と語りました。 将来の可能性について会場から質問されると、「さらに研究が進み、短鎖脂肪酸が疾患のバイオマーカーとして利用されていく可能性がある。EPSは現在、10年前に短鎖脂肪酸が一般に知られていなかったのと同じような状況だが、今後、『EPSはすごい』と広く知られていくようになると思う」と予想しました。
(文と写真 ライター・橋本聡)
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参考:朝日新聞ライフ.net
「腸年齢をチェックしよう!」 腸内細菌と発酵食品の健康効果
https://www.asahi.com/relife/article/15920357



